最新のエッセイ12分
一時に落ちる球
1833年以来、グリニッジでは一時になると、赤い球がマストを下りてくる。時刻を伝えるために考案された方法のなかで、これほどゆっくりしたものはなく、これほど正直なものもない。
毎日午後、1時5分前になると、赤い球がグリニッジのフラムスティード・ハウスの屋上にあるマストを半分ほど上り、止まる。1時2分前には頂上まで上がる。ちょうど一時になると、落ちる。1それがすべてで、この一連の動きは1833年以来続いている。
1時刻は、王立天文台が見学者に示しているものだ。時報球は冬にはグリニッジ標準時、夏には英国夏時間に合わせて動く。だから夏には、太陽の時刻でいう正午ごろに落ちる。多少のずれはあるけれど。
見に行った木曜日、下の中庭には四十人ほどがいて、そのほとんどが、球が球らしく落ちるだけのところを撮ろうと、スマートフォンを掲げていた。
文字盤のない時計を見に来たのだった。報時球は、一日に一度、見える人すべてに時刻を告げる。しかも音は立てない。時を刻まず、時を打たず、針もない。五分かけて準備し、それから一秒にも満たない間に、正確なことをひとつ伝える。2それは、時計が告げられるほかのどんなことよりも、その一秒を必要としていた人々のためにつくられた。
2マストの下ではなく、てっぺんを見て。球が落ちるころには、知らせようとしていたその瞬間は、もう過ぎている。